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横浜地方裁判所 平成8年(行ウ)57号 判決

原告

山田勝之(X)

被告

藤沢市長(Y) 山本捷雄

右訴訟代理人弁護士

川端和治

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

被告が平成八年五月一七日付けでした、原告の住民票の写しの交付請求に対する拒否処分をいずれも取り消す。

第二  事案の概要

本件は、宅地建物取引主任者である原告が、管理している賃貸駐車場に放置された自動車を撤去するために、駐車場の借主(右自動車の所有者)の本籍の記載のある住民票の写しが必要であるとして、被告に対し、住民基本台帳法に基づき右住民票の写しの交付を請求したところ、被告がこれを拒否したことから、原告が右拒否処分の取消しを求めている事案である。

一  争いのない事実

1  原告は、平成八年五月一七日、被告に対し、宅地建物取引主任者証を示し、職務上必要なものとして、藤沢市辻堂東海岸〔略〕を住所とする甲野花子(仮名)(以下「甲野」という。)の本籍を記載した世帯全員の住民票の写しの交付を請求した。その際に原告が提出した交付申請書の「使いみち」欄には、「相続調査の為」とのみ記載してあった。これに対して、被告は、右住民票の写しの交付を拒否した(〔証拠略〕)。

2  次いで、原告が、右同日、本籍・続柄の記載のない甲野の住民票の写しの交付を請求したところ、被告は、その交付に応じた(〔証拠略〕)。

3  さらに、原告は、右同日、「自分が管理する駐車場に放置された自動車の移動につき、所有者である甲野の親又は親族の承諾が必要なので、本籍が知りたい」旨を交付申請書に付記し、重ねて本籍を記載した甲野の住民票の写しの交付を請求した。これに対して、被告は、再度、右住民票の写しの交付を拒否した(〔証拠略〕)。

4  原告は、右同日、被告がした住民票の写しの交付を拒否した処分につき、異議申立てをした。原告は、右申立てにおいて、「平成八年五月一七日付で異議申立人に対してした住民票を交付しなかった処分」の取消しを求め、専ら宅地建物取引主任者(以下「取引主任者」という。)が業務上請求する旨を明示したにもかかわらず、住民票の写しの交付に応じなかった点を異議の理由として主張した。これに対して、被告は、右申立てが右1、3の各拒否処分の取消しを求める趣旨であることを前提として、右1については、その記載だけでは、請求事由の明示がないなどとして、右3については、不当な目的によるとして、いずれの拒否処分も正当であると、平成八年五月二七日、右申立てを棄却した。原告は、同年六月二六日、神奈川県知事に対し、審査請求をしたが、神奈川県知事は、同年九月二六日、これを棄却した(〔証拠略〕)。

二  本件の争点と当事者の主張

本件の争点は、原告がした住民票の写しの各交付請求に対して、被告がこれを拒否したことが適法か否かという点にある。具体的には、〈1〉(前記一1の交付請求につき)取引主任者が、申請書に「相続調査の為」と記載し、職務上の請求であるとして、住民票の写しの交付を請求した場合、市町村長は、住民基本台帳法等に定める請求事由を明らかにしなかったとして、交付を拒否することができるか(住民票の写しの交付を請求する場合に、弁護士等がする職務上の請求に限って、請求事由を明らかにすることを要しない旨を定めた後記自治省令の定めは、憲法一四条一項に違反するか)、〈2〉(前記一3の交付請求につき)原告が示した請求事由は、同法の定める不当な目的によるものとして被告は、住民票の写しの交付を拒否することができるかという点にある。これらの点に関する当事者の主張は以下のとおりである。

1  争点〈1〉について

(一) 被告の主張

(1) 前記一1の拒否処分の根拠について

住民基本台帳法(以下「法」という。)一二条二項は、住民票の写しの交付の請求は自治省令で定める場合を除き、請求事由を明らかにしてしなければならないと定めている。これを受けて、自治省令である住民基本台帳の閲覧及び住民票の写し等の交付に関する省令(以下「省令」という。)三条三号は、請求事由の明示を要しない場合として、弁護士、土地家屋調査士、税理士、社会保険労務士、弁理士、海事代理士又は行政書士(以下「弁護士等」という。)が、その資格と職務上の請求である旨等を明らかにして請求する場合を掲げている。ところが、原告は、右省令が列挙する資格をいずれも保持していないにもかかわらず、「相続調査の為」と記載しただけで請求事由を具体的に明らかにしないまま、本籍の記載のある甲野の住民票の写しの交付を請求した(前記一1の交付請求)のであるから、これに対し、被告が交付を拒否したのは適法である。

(2) 自治省令の合憲性・適法性について

法一二条二項は、住民票の記載内容は当該住民のプライバシーにかかわる事項であるから、不当な請求により住民の権利が侵害されることのないよう、請求事由を明示させて、これを厳正に審査することを原則とし、侵害のおそれのない一定の場合に限って、例外的に右審査を要しないことを定めたものである。これを受けた省令三条三号が、請求事由の明示を要しない場合の一つとして、弁護士等がその資格と職務上の請求である旨等を明らかにして請求する場合を挙げているのは、これらの専門職において、職務上正当な事由により住民票の写し等を必要とする場合が多いこと、これらの専門職は、弁護士法、司法書士法、土地家屋調査士法、税理士法、社会保険労務士法、弁理士法、海事代理士法及び行政書士法に、それぞれ厳格な資格要件、試験・登録の制度、品位保持義務違反に対する懲戒の定めが置かれており、懲役刑による処罰規定のある秘密保持義務の定めも置かれる(土地家屋調査士を除く。)など、厳格な職務規律に服していることによるのであり、請求事由の審査を不要とする扱いには合理性がある。

弁護士等と取引主任者とを比較してみると、弁護士等については、それぞれ単行法で資格等が定められているのに対し、取引主任者については、宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という。)の一部に試験と登録の定めが置かれているにとどまる。また、取引主任者の職務は宅地建物取引業者(以下「宅建業者」という。)に従属するものであり、肝腎の法規上の業務規制(宅建業法第五章)も宅建業者を名宛人とし、守秘義務も宅建業者に課せられているにすぎない。このように、不当な目的による住民票の写しの交付請求を防止するための制度的な担保は、弁護士等と取引主任者との間で大きな差があるから、両者の扱いを区別したとしても不合理ではない。

右に述べたとおり、法が請求事由を明らかにすることを要しないという例外規定を置いたことは、プライバシーの保護という立法目的に照らして合理的であって、憲法一四条一項違反の問題は生じない。また、法は、プライバシーの侵害のおそれがない場合の具体的な定めを自治省令にゆだね、その裁量を認めたものであるから、省令が一見明白に不合理で裁量権の逸脱又は濫用があると認められない限り、省令が法に違反するとはいえないところ、弁護士等の職務上の請求を、取引主任者の職務上の請求、その他の請求と区別して扱うことには合理的な理由があり、省令の定めに一見明白に不合理なところはなく、裁量権の逸脱又は濫用も認められない。

なお、法一二条二項ただし書と省令はあくまでも例外的な取扱いを定めたものにすぎない。そうすると、原告が主張するように、たとえ取引主任者を弁護士等と同列に扱わなかった省令が憲法一四条一項に違反し、違憲無効であると仮定しても、その結果は、省令に列挙された弁護士等が住民票の写しの交付を請求する場合に、取引主任者やその他の者と同様、請求事由を明らかにすることを要するようになるだけのことで、交付請求に当たって請求事由の明示を要するという原告の地位に何ら影響はない。したがって、原告の交付請求を被告が拒否したことは、いずれにしても適法というべきである。

(二) 原告の主張

憲法一四条一項は、「すべて国民は法の下に平等であって、社会的身分により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」旨を規定している。ところが、省令三条三号は、住民票の写し等の交付を請求する際に請求事由の明示を要しない例外的な場合を、弁護士等が職務上の請求として行う場合に限定しており、取引主任者が職務上の請求として行う場合を除外している。しかし、取引主任者は、国民にとって最も重要な財産である不動産の取引に関し、極めて重要な役割を果たしているのであって、その資格及び職務の社会的重要性は、弁護士等と比べて何ら遜色がないのであるから、省令が、取引主任者が職務上の請求を行う場合を例外から除外したのは不合理な差別である。

宅建業法四五条は、宅建業者に対して、業務上取り扱ったことについて知り得た秘密を守る義務を課しており、同法六五条は、これに違反した場合、当該宅建業者の業務を停止させるなど厳しい罰則規定を設けている。これらのことからも、取引主任者が弁護士等と差別される合理的な理由はないというべきである。また、宅建業法三五条は、不動産取引の重要性にかんがみ、取引主任者をして、売買又は賃貸の当事者に対し書面を交付させ、契約成立前に重要事項を説明させる責務を負わせており、同法六五条は、重要事項説明書に虚偽の記載をした場合には、宅建業者の業務を停止させることができるという重い罰則規定を置いている。こうした重要事項の中には、不動産の権利関係も当然に含まれるところ、相続が生じた場合等には、登記簿上の記載が真実の権利者と齟齬することも生じ得るのであって、住民票等の写しの交付を受けることは、調査の一環として必要不可欠である。この意味からも、取引主任者が弁護士等と差別されて、住民票等の写しの交付請求が制限されるのは不合理である。

ちなみに、昭和六〇年法律第七六号による法改正時の国会審議において、政府委員(自治省行政局長)は、「今後、請求理由を書かなくともいい範囲といたしましては、国、地方の公務員でありますとか、弁護士その他行政書士、司法書士等、法律に基づいて一定の仕事を公的に行っておられる方々、こういった方々の職務上の請求におきましては、請求事由まで明らかにすることは必要でないだろう。むしろこういう方々は、職務上の請求である限りは、不当目的に使うということは一般的には考えられない…」と答弁している。取引主任者は、ここにいう「法律に基づいて一定の仕事を公的に行っている者」にほかならない。

以上のとおり、省令三条三号は憲法一四条に違反したものであり、右省令に基づき、原告が請求事由を明らかにしなかったことを理由にして住民票写しの交付を拒否した処分も違憲・違法であるから取り消されるべきである。

2  争点〈2〉について

(一) 被告の主張

法一二条四項は、市町村長は、住民票の写しの交付請求が不当な目的によることが明らかなときは、これを拒むことができると定めている。原告が甲野の住民票の写しの交付を重ねて請求した(前記一3の交付請求)際に明らかにした請求事由によれば、原告は、自己が管理する駐車場につき、利用契約の相手方本人ではなく、その親族を探し出して自動車の移動の承諾を得ることを目的としているものである。しかし、当該親族は、右契約上の債務につき何ら法律上の義務を負うものではないのであって、自動車の移動についての承諾という義務なきことを求めるために、本籍の記載のある住民票の写しの交付を請求するのは、不当な目的によるものであるから、これに対して、被告が交付を拒否したのは適法である。

(二) 原告の主張

原告は、前記一3のとおり、正当な目的によるものであることを明らかにして、住民票の写しの交付を請求している。すなわち、原告が管理している駐車場に放置された甲野所有の自動車(二台)は相当に高価なものであったところ、甲野本人との連絡がつかず、右自動車を無断でレッカー移動させた場合には、窃盗の嫌疑を受けるおそれもあったことから、原告は、自動車の移動について甲野の親族の承諾を得ようとして、甲野の親族を探し出すために住民票の写しの交付を請求したものである。これは、正当な目的によるのであって、その旨を明らかにしてもいるから、不当な目的によるものであることを理由に住民票写しの交付を拒否した処分は法一二条一項、四項に違反する違法なものであって取り消されるべきである。

第三  当裁判所の判断

一  原告の請求と取消しの対象について

本件において、前記第二、一のとおり、原告の住民票写しの交付請求は三回にわたって行われており、そのうちの二回について被告が交付を拒否しているが、原告は、請求の都度、異なった内容の交付申請書を提出しており(〔証拠略〕)、被告も異なる理由に基づいて、各別に交付を拒否する旨を明らかにしているのであるから、前記第二、一1と同3において、それぞれ別個の拒否処分がされたとみるべきである。そして、原告は、本訴において、最終的に、右各拒否処分のそれぞれの根拠についての不服を述べていること、前記第二、一4でみたとおり、異議審理においては、右各拒否処分を異議の対象とみなして審理が行われており、不服申立て前置の要請を満たしているといえることなどからすると、本訴において、原告は、前記第二、一の1の拒否処分と同3の拒否処分両方の取消しを求めていると解するのが相当である。

なお、被告は、原告が当初、住民票の写しの交付請求において請求事由を明らかにしなかったことを自認していたにもかかわらず、後になって、請求事由を具体的に明らかにしたことを前提とする主張(前記第二、二2(二))を始めたことを自白の撤回ととらえて異議を述べているが、これは、右のとおり、原告が前記第二、一の1の拒否処分と同3の拒否処分の取消しを求め、それぞれ異なる取消事由を主張したものと認めるべきものであるから、自白の撤回には該当せず、被告の異議は理由がない。

二  争点〈1〉について

法一二条一項は、何人でも市町村長に対し、住民票の写し等の交付を請求することができると定める一方、同条二項は、自治省令で定めた例外に該当しない限り、右請求は請求事由その他自治省令で定める事項を明らかにしてしなければならない旨を、同条三項は、住民票の写しの交付請求があったとき、市町村長は、特別の請求がない限り、続柄、本籍等の記載を省略した写しを交付することができる旨を、さらに、同四項は、住民票の写しの交付請求が不当な目的によることが明らかであるときは、市町村長はその交付を拒否することができる旨を、それぞれ定めている。そして、法一二条二項を受けた省令三条は、請求事由の明示を要しない場合として、住民票に記載されている者又は同一世帯に属する者が請求する場合(一号)、公務員等がその職名と職務上の請求である旨を明らかにして請求する場合(二号)、弁護士等がその資格と職務上の請求である旨を明らかにして請求する場合(三号)、その他市町村長が相当と認める場合(四号)を掲げている。

右の法令の趣旨は、要するに、住民票に記載された情報は個人のプライバシーに属し、みだりに他人に知られることを欲しない事柄を含んでいることから、第三者が住民票の写しの交付を請求する場合には、あらかじめ請求する理由を明らかにさせて、市町村長の厳正な審査に係らせることとし、社会通念上、住民票の写しの交付を受ける必要性や合理的な理由が認められないときには、これを不当な目的による請求として交付を拒絶することにより、個人のプライバシーの保護を図ったものと解することができる。

ただ、弁護士等については、他人の依頼を受けて官公署に対する申立てを代行すること、あるいは、官公署に提出する書類を代わりに作成することなどを職務とするという共通点があり、当該職務の性質上、依頼を受けた当事者及び関係者の住所や身分関係についての証拠資料を必要とする場合が少なくなく、このような職務上の請求については、住民票の写しの交付を受ける必要性や合理的な理由の存在が一応推認され、市町村長が請求の当否を逐一、審査するまでの必要は認め難いといえる。そこで、省令は、弁護士等がその資格と職務上の請求である旨を明らかにして住民票の写しの交付を請求する場合につき、請求事由を明らかにすることを要しない旨を定めたものと解される。

また、弁護士法、司法書士法、土地家屋調査士法、税理士法、社会保険労務士法、弁理士法、海事代理士法及び行政書士法においては、それぞれの専門職につき、資格要件、試験制度、登録制度の定め、法令違反等を犯した場合について、業務の禁止等の重い処分を含む懲戒(行政書士法においては、都道府県知事による処分)の定めが置かれ、土地家屋調査士法を除き、秘密保持義務の定めが置かれている。前記省令は、弁護士等がこうした厳格な職務規律に服しており、不当な目的に基づいて住民票の写し等の交付を請求するおそれは小さく、個人のプライバシー保護の観点からみて弊害が少ないことを踏まえたものとみることができる。

これに対して、取引主任者は、宅建業者の事務所等に設置され(宅建業法一五条)、不動産取引に関する法律等の専門知識を有する資格者として、顧客に対し重要事項等の説明を行う(同法三五条)など、宅建業者の業務を分担して、あるいは、補助的に遂行する者である。ここでいう宅建業者の業務とは、私人間の不動産の売買・貸借等の取引又はその代理・媒介であって、官公署に対する申立てや書類作成の代行等を内容とする弁護士等の各業務とは性格を全く異にしており、日常の業務の過程で、依頼を受けた当事者及び関係者の住所や身分関係についての証拠資料を必要とする場面が頻繁に生じるとは考えにくい。したがって、取引主任者がその資格と職務上の請求である旨を明らかにして住民票の写しの交付を請求したとしても、そのことから、住民票の写しの交付を受ける必要性や合理的な理由の存在が直ちに推認されるとはいえないのであって、この場合には、あらかじめ請求事由を明らかにさせた上、請求の必要性や合理的な理由の有無、不当な目的による請求か否かについて、原則どおり、市町村長の厳正な審査に係らせる必要があるというべきである。

なるほど、取引主任者についても、宅建業法上、資格要件、試験制度、登録制度の定めが置かれており、都道府県知事は、事務に関し不正又は著しく不当な行為をしたとき等に、事務の禁止や登録の消除といった処分を行うことができる(同法六八条、六八条の二)とされるなど、弁護士等と同様に、法令上の職務規律に服しているといえる。また、宅建業法上、宅建業者及びその使用人その他の従業者に対しては、秘密保持義務が課されており(同法四五条、七五条の二、八三条一項一号)、取引主任者が業務を行う場合には、宅建業者あるいはその従業者のいずれかの立場で右義務を負うことになり、右義務違反は都道府県知事が行う前記処分の処分事由に該当することにもなるのである。しかし、弁護士等と取引主任者とでは、そもそも職務の性質・内容を異にしており、職務上、住民票の写しの交付請求をする必要性の程度等について差異のあることは既に述べたとおりであって、取引主任者について職務規律や秘密保持義務に関する規定があることは、取引主任者を弁護士等と同列に扱わなければならない根拠にはなり得ない。結局のところ、省令が取引主任者を弁護士等と別異に扱い、住民票の写しの交付請求に当たり、請求事由を明示することを要求しているとしても、それは両者の職務の性質・内容の差異に従った合理的な区別というべきであり、憲法一四条違反の問題は生じないと解される。

以上のとおり、省令の定めについて憲法違反は問題とならない。よって、法及び省令の定めにのっとり、「相続調査の為」だけでは、法一二条二項にいう請求事由を明らかにしたとはいえないとしてした前記第二、一1の拒否処分は適法というべきである。

三  争点〈2〉について

法一二条四項が、住民票の写しの交付請求が不当な目的によることが明らかであるときは、市町村長はその交付を拒否することができる旨を定めていること、ここでいう不当な目的による請求が、社会通念上、住民票の写しの交付を受ける必要性や合理的な理由の認められない請求を指すことは、二でみたとおりである。

原告が前記第二、一3の交付請求時に明らかにした請求事由及び原告の主張によれば、原告は、自分が管理する駐車場の借主である甲野が自動車を放置していたので、これを移動する必要があるところ、甲野との連絡がとれず、代わりにその親族の承諾を得る必要があるとして、その親族関係を調べるために本籍の記載のある甲野の住民票の写しの交付を請求したものと認められる。

しかしながら、一般的に、借主に相続が開始したなどの事情がない限り、借主の親族が、駐車場の賃貸借契約上の義務を負う余地はないし、たとえ借主の親族から自動車の移動の承諾を得たとしても、借主からの授権がない限り、借主自身の承諾に代わり得るものではなく、何らかの法的効果がもたらされるものでもない。そうだとすれば、原告が甲野の親族を探しだすこと、そのためにその住民票(本籍の記載のあるもの)の写しの交付を受けることに、社会通念上の必要性や合理的な理由を見いだすことは困難であって、結局のところ、原告の交付請求は不当な目的によることが明らかな場合に該当するというほかはない。

したがって、前記第二、一3の拒否処分も法一二条四項にのっとった適法なものというべきである。

四  まとめ

以上のとおり、原告の本訴請求はいずれも理由がないので棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 吉田徹 近藤裕之)

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